常磐線水戸駅(三の丸グランキャッスルタワー)

三の丸グランキャッスルタワー

やっとバスが来た。
これほど、バスが有難い乗り物だとは、思わなかった。
実は、茨城県庁の東側の県庁バスターミナルにも、時刻表によると、今ごろ、バスが来ているはずなのだ。
ちょっと、時間をずらしてくれれば、便利なのに。
と、思うのだが、クルマ社会にあっては、そのような、考え方は、まったくないのだろう。
そもそも、水戸駅から茨城県庁まで、バスを利用する客なんて、ほとんど、いないんじゃないかな。
ともあれ、これで、水戸駅には、日没前には着ける。
バスは、北へ北へと走り、再び、千波湖の西側を進む。
この雄大な光景も、3回目だな。もう、駅に向かうだけなので、ゆっくり、眺められるけど。
大工町の交差点で曲がり、東へ。この交差点の南東側に、高層ビルが建ったとき、再び、この地を訪れることになる、と思うのだけど、いったい、いつになることやら。
水戸街道、あるいは、黄門さん通りをバスは、水戸駅へと走る。
水戸駅のちょっと手前で下車。
通りの北側。高台になっているのだが、その高台に登っていくと、三の丸グランキャッスルタワーがある。
竣工は、失われた10年が終わって、集積化の時代になる頃。
そういえば、茨城県庁は、豪勢だったし、閑散としているとはいえ、大通り沿いは、商業化されているのに、それ以外は、全体的に、なんとなく、古ぼけた感じだったな。
黄門さん通りに出て、東へ。銀杏坂を下ると、水戸駅
駅前のバス切符売場へ。
売場のおばさんが親切に、時間を教えてくれたり、往復切符を勧めてくれたりした。
水戸の街には、縁もゆかりもないので、往復切符は、丁重にお断りしたけど、ここにきて、初めて、水戸の街に来た、と感じてしまう。
残念だが、もう帰らなければ。
お腹もすいたし。結局、朝から何も食べていない。
バスが来るまで、わずかなので、近くの、都心にもあるような、チェーン店に入り、フランクドッグを買って、バス停のベンチで食べる。
食べているうちに、東京駅行きの高速バスが来る。
乗り込んで、座席に座ったとき、気付いたが、水戸納豆、買うのを忘れた。
さっきの、バス切符売場のおばさんに聞けば、店を教えてくれたのだろうけど、今の水戸の街並みを見ると、納豆、という雰囲気じゃないな。と、フランクドッグを食べながら、思ってしまうが。
バスは、発車し、西へと走り出す。
日はすぐに、落ち、車窓の街並みの風景は、夜の帳に閉ざされてしまう。
見えるのは、街の灯りのみ。
今日は、右往左往してしまったので、疲れてしまったようだ。早々に寝てしまう。
目が覚めると、バスは、常磐自動車道を、疾走している、はずだったのだが。
都心に近付くに従い、そのスピードは、緩やかになり、ついには、大渋滞につかまってしまった。
ここまで来れば、急ぐ必要は、ないので、焦る必要はなかったのだが。
そのとき、バスの運転手のアナウンスが始まる。急ぎの客は、八潮パーキングエリアで、つくばエクスプレスに乗り換えた方がいい、とのこと。ついては、特別に100円で、秋葉原まで行ける切符を、バス車内で、別途、販売する、ということらしい。
自分は、急ぎの客ではないのだが、面白そうなので、その、つくばエキスプレスの100円切符を購入してみることにする。
八潮パーキングエリアで下車。なにか、秘密の通路みたいなところを通って、パーキングエリアの外に出る。
ちょっと、南へ歩くと、目くるめくような、光の洪水。
目の前には、巨大なショッピングセンターがあるのだ。
このエネルギーは、ついさっき、妙に豪華な茨城県庁を目にしてさえ、圧倒され、気圧されてしまうな。
あの張りぼてみたいな茨城県庁が、微笑ましくなってしまうぐらい。
そのショッピングセンターの先に八潮駅があり、つくばエクスプレスに乗り込む。
終点の秋葉原駅に着く。
フランクドッグだけでは、腹が減るので、駅構内のそば屋で、慌しく、食事。
そばを食べていると、ふと、水戸駅前のバス切符売場のおばさんを思い出す。
やっぱり、水戸納豆について聞けばよかったかな。あるいは、往復切符でなくても、なんか、思いつかないけど、お土産でも買えばよかったかな。
でも、なんで、往復切符、なんだろう。
往復切符、といえば、つまり、東京へ行って、水戸へ帰る、切符なわけだ。
そういった意味では、自分は、往復切符、なんて、必要ない。いつも、片道切符。
そのことに気付くと、寂しい気持ちになってしまった。
ひょっとしたら、あのおばさん、自分のこんな気持ちを見透かしたのだろうか。
まさかね、そんなはずはない、と、思いながら、ちょっと、うろたえてしまう。
急いで、そばをかきこむ。早く、帰らなければ。
(2008年11月記)