京成金町線柴又駅(柴又駅前の寅さん像)

柴又駅前の寅さん像

そばを食べ終わって、京成金町駅のホームに行ってみたが、まだ、列車は、来ていないようだ。
来る間、しばし、ぼんやりと、ホームから、金町の家並みを見ている。
今日は、夏の日差し。いつの間にか、季節は、進んでいたようだな。
こんなところで、初めて気付くなんて、どうしたんだろうか。
それにしても、こうして、ぼんやりと、佇むのは、本当に、久しぶりだ。
しばらくすると、ゆっくり、京成金町線の、車両が、入ってくる。
忙しげな通勤路線、常磐線とは、大違い。ローカル線だからだろうけど、今は、むしろ、柴又への、観光路線かもしれない。
だから、ゆっくりでも、いいのかな。
車両に乗り込み、数分後、再び、金町線は、動き出す。
草いきれの中、のろのろと、進み、柴又駅へ。
この駅に降り立つのは、何年ぶりだろうか。
改札を出て、駅前に出ると、寅さんの銅像がある。
この間、来たときは、なかったんだけど。
ところで、寅さん、というと、昔は、延々と、シリーズで、やっている、退屈な、映画かと、思い込んでいた。
でも、以前、社員旅行の帰り、観光バス内で、場つなぎに、寅さんの映画、やっていたのだが、退屈な映画、という思い込みが、吹っ飛んでしまったな。
退屈な映画どころか、間違いなく、屈指の名画だ。
ということで、遅ればせながら、第1作は、見たのだけど。ただ、もう、全部の作品を見るのは、とうてい、無理だ。あと、数本、見れればいいだろう。気付くのが、遅すぎたのかも。
気を取り直して、映画「男はつらいよ」、について。
せっかく、柴又駅に、寅さんの銅像が、立っているのだが、第1作、寅さんの登場は、東側の江戸川、矢切の渡し、からだ。(もっとも、江戸川の河川敷に、寅さんの銅像があれば、増水したときに、流されてしまうので、設置は、無理だろうけど)
では、なぜ、寅さんは、矢切の渡しで、江戸川を渡って、登場したのだろう。
前回、柴又を訪れたとき、実は、矢切の渡しで、対岸、千葉県側に、渡っている。(ちなみに、このときは、寅さんのことは、意識はしていなかった)
対岸に辿り着き、河川敷を進むと、その先には、広大な畑地が広がっていた。
さらに、その畑地を突破すると、急な上り坂。その坂を登りきると、国府台の台地があるのだ。
そのときは、北総開発鉄道矢切駅で帰ったけど。
駅近くには、南北に伸びる、松戸と市川を結ぶ、通り。この通りを、松戸から市川まで、歩いたことがあるが、大通りではないにしても、松戸と市川を結ぶ、幹線道路だったと思う。だから、バスの往来が盛んだった。
とすると、寅さん、市川か松戸で、いったん、下車して、バスに乗り継ぎ、適当なバス停で降りて、江戸川の河川敷まで、歩いてきた、ということになる。
このような経路、さらには、矢切の渡し、という交通手段、なんらかの、必然性は、あるのだろうか。
どう考えても、必然性は、ないと思う。でも、ただの、気まぐれ、では絶対ない。
そのヒントは、映画のシーンの中に出てくる。
妹、さくらさんのお見合いを、ぶちこわしにした、寅さん、責任を感じて、置手紙を残し、また、旅に、出てしまう、というシーンだ。
さくらさん、置手紙を読み終わるや、すぐに、帝釈天境内を、走り抜け、江戸川河川敷へ。
すでに、渡船上の寅さんを見付けるが、もう、間に合わない。
この時、いったい、なぜ、さくらさんは、寅さんが、矢切の渡しで、江戸川を渡る、ということに、すぐ、気付いたのだろうか。
過去に同じことが、あったから、に違いない。
つまり、20年前、寅さんが、家を、出奔したとき、今回と同じく、交通手段として、矢切の渡しを使ったのだ。
なぜなら、当時、寅さんは、まだ、未成年。京成金町線を使っていれば、いくらなんでも、じきに、発見されて、家に連れ戻されていたはずだ。
20年前の寅さん、対岸に着くや、東へ駆けに駆けて、通りまで辿り着き、松戸行きか、市川行きか、わからないが、ちょうど、バス停に来ていたバスに、飛び乗ったのだろう。
これなら、いくら、探し回っても、無理だ。
たぶん、このことは、矢切の渡しの船頭さんが、あとで、気付いて、寅さんの家族に、伝えたのかな。
だから、さくらさんは、その当時のことを、思い出して、寅さんが、矢切の渡しを使うことに、気付いたのだ。
とすると、寅さんが、冒頭、なぜ、わざわざ、矢切の渡しで、登場するのか、ということも、わかるような気がする。
すなわち、寅さんは、20年前、家を出奔する、直前まで、時計の針を、戻したかったのだろう。
当時、家を飛び出したときのコースを、逆に、辿ることで、そのことを、体感し、実感したかったのだ。
だとすると、故郷、柴又に、帰る、といっても、たんに、懐かしいから、とか、故郷に錦を飾る、といったことではなく、もっと、もっと、重い意味で、故郷に、帰ってきたのかもしれない。
(2009年6月記)