南北線六本木一丁目駅(高台にある六本木一丁目駅の入口)

高台にある六本木一丁目駅の入口

工事現場の柵に沿って、坂を、上っていく。
やがて、台地の尾根筋。
ようやく、開けた場所に出た。
今までの、瓦礫の山が、うそのように、閑静な雰囲気が広がる。
もう、破壊の跡からは、脱したようだな。
ここまで来て、初めて、茶川さんの、脳裏に去来した、ゴジラから、逃れられた、というわけか。
ところで、茶川さんのゴジラ、いったい、何を意味しているんだろうか。
あの当時、ゴジラなんて、銀幕の中の怪物、実生活には、関係ないはずだが。
それに、ゴジラは、戦争の暗喩。当時、もはや、戦後も、終わろうとしており、昔語りの世界。だから、ゴジラは、娯楽スペクタクルになっているのだ。
でも、茶川さんにとって、淳之介くん、ヒロミさんとの、家族団欒が、消え去ろうとしているとあっては、あながち、怪物の存在は、非現実的なものとは、いえなかったのかもしれない。
戦後を克服し、安寧な市民生活が、ようやく、訪れたというのに、どうしたことだろうか。
もっとも、茶川さんの家族団欒は、「ALWAYS三丁目の夕日」の中では、結局、守られている。
エンドロールで流れる、駄菓子屋の前での、茶川さん一家の、楽しそうな、モノクロの映像。
ひょっとしたら、このような、揺るぎない安寧こそが、この後、訪れるであろう、高度成長を、成し遂げさせた、源泉なのかもしれない。
そんなことを考えながら、緑濃い、静かな尾根道を、北へ歩く。
さっきの工事現場とは、対照的に、平安な光景だな。
たぶん、昔の落ち着いた生活は、こんなところにしか、もう、ないのかもしれない。
つまり、今の時代、磐石の安寧は、こんなにも、高みに、上り詰めなければ、手に入らないものなのなのだ。
すぐに、通りの、西側に、六本木一丁目駅の入口。
この先の、エスカレーターを下っていけば、地下鉄の改札口だ。
絶え間ない、不安の渦巻く下界へ、下っていく。
どうして、こんな時代に、なってしまったんだろう。
そう思いながら、エスカレーターは、かまわず、下へと向かっていくのだ。
(2009年11月記)